「ワインの王様・王様のワイン」バローロ

いつもアルポルトカフェ日本橋高島屋店をご愛顧下さいまして、誠にありがとうございます。

今回ご紹介するワインは、残念ながらグラスでご提供することは今のところできませんが、「ワインの王様・王様のワイン」と呼ばれるバローロ(Barolo)です。

バローロはイタリアワインファン以外にも知られているイタリアの代表的なワインで、北イタリアはピエモンテ州(首都トリノ)に生まれます。葡萄は先日ご紹介した「バルバレスコ」と同じネッビオーロという品種です。

バローロは古くから王者に愛され「王のワイン、ワインの王」と呼ばれています。しかしそれは単に王に愛されたからそう呼ばれているのではなく、その作りであり、その香りであり、その味わいに王者たる所以があるように思えます。

まず製法上で特徴的なのは、法定熟成期間が非常に長いということです。私の記憶が正しければ醸造後、樽で最低3年、瓶で1年となっていたと思います。

一般の方だと別に樽に入れて放っておけばいいだけじゃないかと思われると思いますが、実は樽というのは非常に多くの成分を含んでいて、多くの影響をワインに与えます。

それは色であったり、バニラやバナナの香りであったり、タンニンであったり、甘みであったり、色々です。普通に考えれば、それによってワインはより良いものになると思われがちですが、なかなかそうでもないようです。

というのは、例えば学校というものは、知識や教養や社交性をはじめ多くのものを人に与えてくれますが、素質も素養も個性も目的意識もない人があんまり多くそれを吸収すると、自分には何が向いているのか、自分は何がしたいのか、自分はどんな人間なのかもわからなくなってしまったり、場合によっては知識の塊みたいになったり、周りに合わせるばかりで無個性で思想のない人になってしまうこともあるでしょう。

それと同じことがワインでも起こります。ワインも平凡なのに樽に入れたりすると、樽の影響に負けてしまい、まったく個性も主張もない退屈なものになってしまいます。

しかしながら学校も、素質や素養や個性や目的意識のある勤勉な人が通えば、その人の持っているそれらのものをさらに深く広く強くしてくれることでしょう。まさに聖書にあった「持っている人はさらに与えられて豊かになり、持っていない人は持っているものまで取り上げられてしまう」のが学校であり、樽なのです。

また瓶に入ってからワインは本当に真価を試されます。樽の中にある間は熟成というよりも強化期間というべきで、瓶に詰められて冷たく暗い闇の中に閉じ込められてから、初めてワインは自分と向き合い、自分の中に眠っているものを探し出す旅に出ます。

ですから、人でも精神の強い人であれば孤独の中でさらに自分を磨くことができるでしょうが、精神の弱い人であれば、「小人閑居して不善を為す」の教えではありませんが、おかしな妄想に耽るなどして、ひどいのだと人格を損ねて世間には出れないようなものとなってしまうこともあるように、ワインも本当に優れたものだけが瓶内での熟成によってさらによいものになりますが、優れていないものを長く熟成させるともう飲めないようなものになってしまうのです。

ですからバローロの最低熟成期間がこのように一般的なワインよりも長く規定されていることによって、バローロと名乗るワインの品質の最低保証は一般的なワインよりも高くなっているのです。

まあそれもそうですが、バローロの王たる所以はその味わいにあると思います。最近人気のワイン、スーパートスカーナ(古い!)でもボルドーでもポムロールでもカリフォルニアでもオーストラリアでもそうですが、収穫量を低く抑え選別を厳しくして高糖度果実から高糖度果汁を得て、温度管理によって醗酵を抑え、さらにフランス産の小さい樽(しかも新品)に入れて甘みを引き出しています。

しかしバローロは違います。バローロは昔ながらの木樽醗酵で徹底的に糖分を消化することと、フランス産オーク材よりもドライなスロヴェニア産の3000リットルクラスの大樽(しかもほとんどが長年使用されているもの)によって、タンニン、つまり渋味成分の中に隠れている優しい甘みを感じさせてくれます。

この違いを喩えると、過熟させてフレンチバリックを使用したワインは親しみやすい笑顔やユーモアや恩情とかを振りまく民主主義の政治家のようですが、バローロは謹厳で冷徹な封建制度の君主のようです。

前者は表面上は人に好まれますが、実は内容は空っぽだから柔らかい物腰なのであって、さらに自分が愛されることばかり考えているので、結局国も本人も駄目になります。

後者は本当に内容が入っているので重々しく堅苦しくなり、同時に自分が愛されることよりも国家が末永く安泰で民が幸せになることを一番に考えているので非常に厳しくなるのです。

もちろん誰であれ人から愛され親しまれたいと思うことでしょう。ワインにしても同じことです。若々しいうちに華々しく世に出て持て囃されたいでしょう。しかし正統的なバローロはそういった安易な道をとらず、本当に素晴らしい貴重な甘みを感じさせてくれるのです。こういうワインはバローロにしかありません。これが私の思うところ、バローロの「王のワイン、ワインの王」たる所以なのです。

さて前置きが長くなりましたが、今回アルポルトカフェが自信をもってご紹介するのは、数あるバローロの中でも1世紀以上の歴史を持つ老舗ボロゴーニョ(Borgogno)です。

バローロには革新派と保守派というのがいますが、まあ中間くらいの正統的なワイナリーで、2010年現在1999年のものを出荷しており、自社セラーにて多くのオールドヴィンテージを貯蔵して少しずつ出荷しています。

蔵元が古酒を保存して出荷するこの蔵出しという方法は、熟成・保管状態の最大限確実なものを楽しめるので蔵元にとってもまた消費者にとっても大変よい方法だと思います。

またワインのコルクは平均で20年程度しか寿命がなく、その上ワインは年々目減りしていくわけですが、蔵元に貯蔵されているものはコルクが限界に近づいたら目減り分を補充し、極力空気に触れないよう特殊な器具を使用し、新しいコルクに打ちかえられてワインが損傷するのを防がれてありますし、出荷時にきれいなラベルを張られて出てくるので、とても安心です。

実際、樽に3年も入れたワインなどは、その後最低6年くらいは瓶熟成が必要ですから、樽熟3年が規定されているバローロは逆算すると9〜10年前のヴィンテージを販売しているのが本来正しいというわけです。

しかし残念ながら、収穫から10年後にリリースということは、10年間投資した資金が回収できず、さらに毎年増え続ける膨大な在庫を管理しなければならないというわけで、本当に力のあるワイナリーにしかこのようなことはできません(ボルドーなどはその全く正反対で、プリムールという名の、樽に入っている状態、つまりまだワインが仕上がっていない状態で評論家に宣伝させて、買い手を探し、少しでも早く、多くの資金を回収しようとしています)。

またこの蔵出しというシステムによってオールドヴィンテージのワインは、市場任せで値段がべら棒に上がってしまうこともなく、一般の方も比較的手の届きやすい価格で古酒を楽しむことができます。

通常、一つ一つのヴィンテージを売り切ってしまうワイナリーのワインは、品数があっという間に底をつく上に、あっちこっちで金利が発生して上乗せされるので1年ごとに10%〜20%値上がりしてしまいますが、蔵出しのワインは蔵元が在庫を保存しているので、せいぜい5%程度しか値上がりしません。

現在ボロゴーニョがリリースしているバローロリゼルヴァは1999年ですから、収穫からゆうに10年以上経っておりますが、本当に普通のバローロの価格よりちょっと上かなという価格でリリースされています。

ほかにも蔵出しをしているワイナリーはいくつかありますが、本当に良心的な価格を保っているのは、このボロゴーニョとカンパーニャのマストロベラルディーノくらいでしょう。ヴェネト州のアマローネワイナリー、マージ(MASI)やベルターニ(BERTANI)は、見事に金利と保管料を上乗せしています。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノビオンディ・サンティ(BIONDI−SANTI)に至っては、自社の評価と在庫数から、ほとんど市場と乖離した価格設定をしております。

ただし、ボロゴーニョの古酒であれば、安全だというわけでは決してありません。ボロゴーニョの蔵で熟成させられていたもののほか、ブローカーが若く安いうちに買って、熟成させたものも非常に多く出回っているからです。

その違いは歴然、蔵元の蔵出しは、どれだけ古いヴィンテージでも新しいラベルが貼られているし、ボトルは綺麗。さらに20年以上前のものであれば、大体新しいコルクが打ちこまれていて、目減り分も補充されているので、中身が傷んでいるということはほとんどないと言っていいでしょう。

しかし蔵元以外の熟成庫にあった場合は、そうではなく、ラベルは経年劣化、ひどく目減りし、コルクはぼろぼろということになります。そして当然中身も傷んでいる確率が非常に高いです。ですから、「ボロゴーニョ」とか「蔵出し」という言葉で古酒を安易に信用してしまうことのないようにご注意いただきたいと思います。

(蔵元蔵出しではないボロゴーニョの古酒。ラベルはひどく傷んでおり、中身も腐っておりました)

ついでに、バローロは30〜40年は持つ長熟ワインと言われておりますが、ワインは大丈夫でもコルクはそんなにもちません。コルクはどんどん劣化していきます。ですのでバローロワインセラーで30年も、40年も熟成させることはまず不可能であると考えてください。

さらにバローロは飲み頃が非常に難しいです。作り手のスタイルによって、同じヴィンテージでもすぐに飲めるものや、当分飲めないようなものもあります。

一例を挙げますと、バローロの最高峰、ジャコモ・コンテルノのリゼルヴァ・モンフォルティーノなどは、樽で7年〜10年も熟成させられているので、酸とタンニンが異常なまでにきつく、リリースから10年は飲めないような代物です。

またその弟アルド・コンテルノはいきなり飲み頃であったり、リゼルヴァ・グランブッシアはch.ムートン級の暗さでいつ飲めるのか見当もつきません。

そんなわけですので、バローロを楽しむにはすでに飲める状態になっているものをリリースする、このボロゴーニョを選ぶのが一番賢明であるということが言えます。

ついでに私見ではありますが、私が飲んだヴィンテージのバローロと、他銘柄から予測する近年の出来栄えを簡単に述べてみようと思います。

1967年・・・蔵出しリコルクものでない限り、すでに絶えている。

1970年・・・状態がよければ、まだ生きている。

1985年・・・圧倒的な大きさ。岩山のように力が充溢し、未だ衰えを知らず。大山のよう。

1988年・・・骨格のはっきりとした、しかし未だ正体は不明。

1989年・・・前年に似た、しかし暗く、無表情な。

1991年・・・貧弱というよりは繊細と思いたい。そろそろ限界。

1993年・・・中庸の、やや乾燥した、粗雑な感さえ漂う、魅力のないヴィンテージ。ただし最上のものは、今もなお熟成を続けている。

1994年・・・水っぽく、さらにブドウの未熟が明らかに出ている。とっくに飲み頃を超えており、萎れたバラの臭いが鼻につく。

1995年・・・タンニンも豊富でなおかつ潤いのあるビンテージ。完璧なバランスと造形美。しかし表情に欠ける。

1996年・・・豊満で、重たい、しかもある種の暗さが漂う。いつ解消するのか? しまりがない。

1997年・・・ゴージャスな出来栄え。金閣寺東照宮のような華美な趣。荘重さに欠けるきらいがある(バルバレスコは絶品)。

1998年・・・息を飲む荘厳さ、その静謐な奥深さ、隙のない逞しさ。正面を見据え、無言で、自信に満ちた、鉄塊のようなバローロ

1999年・・・ブルゴーニュ風の優美さ。しかも清楚。若飲み。

2000年・・・猛暑のため非常にドライでパワフルな、しかしやや雑で空虚な感が否めない。ch.ランシュバージュ風の

2001年・・・1995年に似た、前評判通り豊麗な、しかし熟成は不明。

2002年・・・存在不明。

2003年・・・記録的な猛暑。高いアルコールと激しいタンニンがあるものの、熟成する力と価値があるかどうか。

2004年・・・全てにおいて節度があり、模範的なバランスの、優等生的なワイン。物足りない気もするが、親しみ易く、満足すべきヴィンテージ。

2005年・・・葡萄の熟度が足りず、酸が立つものの、華奢で明るく個性的なワインとなるでしょう。

2006年・・・香り高く豊満なヴィンテージ。甘みが強く、酸に欠けるきらいがあり、非常に飲みやすいものの、熟成には全く向かないでしょう。1996年に似ている。

2007年・・・007/ジェームス・ボンドのようにアグレッシブでセクシーとはいかず、おそらく平凡か、それ以下。全体的に水気が多く、脆弱なヴィンテージと位置付けられています。

2008年・・・中庸。


といったわけで、現在入手できるヴィンテージでは、1998年と1999年が私のお勧めです。1998年は完全無欠のバローロで、偉大なる1985年に近いものがあります。1999年はそろそろピークでしょうが、非常に美しく、私個人としては好きです。

そんなわけですので、ぜひ飲みにいらしてください。

ボトル ¥12600

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